ははがくにへ・とこよへ
妣が国へ・常世へ

冒頭文

一 われ〳〵の祖(オヤ)たちが、まだ、青雲のふる郷を夢みて居た昔から、此話ははじまる。而(しか)も、とんぼう髷を頂に据ゑた祖父(ヂヾ)・曾祖父(ヒヂヾ)の代まで、萌えては朽ち、絶えては孼(ひこば)えして、思へば、長い年月を、民族の心の波の畦(ウネ)りに連れて、起伏して来た感情ではある。開化の光りは、わたつみの胸を、一挙にあさましい干潟とした。併(しか)し見よ。そこりに揺るゝなごりには、既に業(ス

文字遣い

新字旧仮名

初出

「国学院雑誌 第二十六巻第五号」1920(大正9)年5月

底本

  • 折口信夫全集 2
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年3月10日