ぶんがくにおけるきょこう
文学に於ける虚構

冒頭文

このごろ、短歌の上で虚構の問題が大分取り扱はれて來た。文學に虚構といふことは、昔から認められてゐた。日本文學では、それを繪空事(エソラゴト)・歌虚言(ウタソラゴト)などゝ言つて、文學には嘘の伴ふものだといふことを、はつきり知つてゐた。寧、藝術は嘘で成り立つてゐる。其肝腎の部分は嘘だと言つてゐる。だから昔の人は藝術には信頼せず、作家にしても、戲作などゝ自分自身を輕蔑してゐた。今言はれてゐる虚構といふ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「短歌研究 第五卷第四號」1948(昭和23)年4月

底本

  • 折口信夫全集 第廿七巻
  • 中央公論社
  • 1968(昭和43)年1月25日