おんじょうのゆたかななつめさん
温情の裕かな夏目さん

冒頭文

夏目さんとは最近は会う機会がなかった。その作も殆んど読まない。人の評判によると夏目さんの作は一年ましに上手になって行くというが、私は何故だかそうは思わない、といって私は近年は全然読まないのだから批評する資格は勿論ないのである。 新聞記事などに拠って見ると、夏目さんは自分の気に食わぬ人には玄関払いをしたりまた会っても用件がすめば「もう用がすんだから帰り給え」ぐらいにいうような人らしく出てい

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説 文豪夏目漱石号」1917(大正6)年1月号

底本

  • 日本の名随筆 別巻75 紳士
  • 作品社
  • 1997(平成9)年5月25日