しゅみのいでん
趣味の遺伝

冒頭文

一 陽気のせいで神も気違(きちがい)になる。「人を屠(ほふ)りて餓(う)えたる犬を救え」と雲の裡(うち)より叫ぶ声が、逆(さか)しまに日本海を撼(うご)かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応(こた)えて百里に余る一大屠場(とじょう)を朔北(さくほく)の野(や)に開いた。すると渺々(びょうびょう)たる平原の尽くる下より、眼にあまる獒狗(ごうく)の群(むれ)が、腥(なまぐさ)き風を横に

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夏目漱石全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年10月27日