ロンドンとう
倫敦塔

冒頭文

二年の留学中ただ一度倫敦塔(ロンドンとう)を見物した事がある。その後(ご)再び行こうと思った日もあるがやめにした。人から誘われた事もあるが断(ことわ)った。一度で得た記憶を二返目(へんめ)に打壊(ぶちこ)わすのは惜しい、三(み)たび目に拭(ぬぐ)い去るのはもっとも残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う。 行ったのは着後間(ま)もないうちの事である。その頃は方角もよく分らんし、地理などは固

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夏目漱石全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年10月27日