みずのみっか
水の三日

冒頭文

講堂で、罹災民(りさいみん)慰問会の開かれる日の午後。一年の丙組(当日はここを、僕ら——卒業生と在校生との事務所にした)の教室をはいると、もう上原君と岩佐君とが、部屋(へや)のまん中へ机をすえて、何かせっせと書いていた。うつむいた上原君の顔が、窓からさす日の光で赤く見える。入口に近い机の上では、七条君や下村君やその他僕が名を知らない卒業生諸君が、寄附の浴衣(ゆかた)やら手ぬぐいやら晒布(さらし)や

文字遣い

新字新仮名

初出

「学友会雑誌」1910(明治43)年11月

底本

  • 羅生門・鼻・芋粥
  • 角川文庫、角川書店
  • 1950(昭和25)年10月20日