はんしちとりものちょう 53 しんカチカチやま |
半七捕物帳 53 新カチカチ山 |
冒頭文
一 明治二十六年の十一月なかばの宵である。わたしは例によって半七老人を訪問すると、老人はきのう歌舞伎座を見物したと云った。 「木挽町(こびきちょう)はなかなか景気がようござんしたよ。御承知でしょうが、中幕は光秀の馬盥(ばだらい)から愛宕(あたご)までで、団十郎の光秀はいつもの渋いところを抜きにして大芝居でした。愛宕の幕切れに三宝を踏み砕いて、網襦袢の肌脱ぎになって、刀をかついで大見得を
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 時代推理小説 半七捕物帳(五)
- 光文社時代小説文庫、光文社
- 1986(昭和61)年10月20日