だいきょうのくじ |
大凶の籤 |
冒頭文
どんな粗末なものでも、仕立下しの着物で町を歩いてゐて、時ならぬ雨に出逢ふ位、はかないばかり憂欝なものはない。いや、私の神経質は、ちよつと汗をかくのにも、ざらざらと砂埃を含んだ風に吹きつけられるのにも、あるひはまた乗物や他家の座席の不潔さにも、やり切れない嫌悪の情を起させるほどである。ある夏の日、私は浅草に近い貧民窟で、——そこで知合になつた男について、物語らうとするのがこの小説であるが、——狭つ苦
文字遣い
新字旧仮名
初出
底本
- 現代文学大系 44 武田麟太郎・島木健作・織田作之助集
- 筑摩書房
- 1967(昭和42)年