むしのいのち
虫の生命

冒頭文

炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者(ひとりもの)で、毎日毎日奥山で炭焼竈(がま)の前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。 今年も勘太郎は炭焼竈に楢の木や樫の木を一パイ詰めて、火を点(つ)けるばかりにして正月を迎えましたが、丁度二日の朝の初夢に不思議な夢を見ました。 勘太郎は睡っているうちに、どこからともなく悲しい小さい声で歌う唱い声が聞こえて来ました。

文字遣い

新字新仮名

初出

「九州日報」1923(大正12)年1月

底本

  • 夢野久作全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年5月22日