かいむ
怪夢

冒頭文

工場 厳(おごそ)かに明るくなって行く鉄工場の霜朝(しもあさ)である。 二三日前からコークスを焚(た)き続けた大坩堝(おおるつぼ)が、鋳物(いもの)工場の薄暗がりの中で、夕日のように熟し切っている時刻である。 黄色い電燈の下で、汽鑵(ボイラー)の圧力計指針(はり)が、二百封度(ポンド)を突破すべく、無言の戦慄(せんりつ)を続けている数分間である。 真黒く煤(

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学時代」1931(昭和6)年10月、「探偵クラブ」1932(昭和7)年6月

底本

  • 夢野久作全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年8月24日