じゅんさじしょく
巡査辞職

冒頭文

前篇 「草川の旦那さん。大変です。起きて下さい。モシモシ。起きて下さい。私は深良一知(ふからいっち)です」 暑い暑い七月の末の或る早朝であった。山奥の谷郷(たにさと)村駐在所の国道に面したホコリだらけの硝子戸(ガラスど)をケタタマシク揺(ゆす)ぶりながら、一人の青年が叫んだ。 それは見るからにここいらの貧乏百姓の児(こ)と感じの違った、インテリじみた色の白い鼻筋のスッキリとした美

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

底本

  • 夢野久作全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年9月24日