ゆきのしらね
雪の白峰

冒頭文

アルプスに Alpine Glow(山の栄光)という名詞がある、沈む日が山の陰へ落ちて、眼にも見えなくなり、谷の隅々隈々に幻の光が、夢のように彷徨(さまよ)い、また消えようとするとき、二、三分の間、雪の高嶺に、鮮やかな光が這(は)って、山の三角的天辺(てっぺん)が火で洗うように耀(かがや)く、山は自然の心臓から滴(た)れたかと思う純鮮血色で一杯に染まる、まことに山の光栄は落日である、さればラスキン

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 山岳紀行文集 日本アルプス
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1992(平成4)年7月16日