一 初秋の夜で、雌(めす)のスイトが縁側(えんがわ)の敷居(しきい)の溝の中でゆるく触角を動かしていた。針仕事をしている母の前で長火鉢(ながひばち)にもたれている子は頭をだんだんと垂れた。鉄壜(てつびん)の手に触れかかると半分眼を開けて急いで頭を上げた。 「もうお寝。」 母は縫目(ぬいめ)をくけながら子を見てそういった。子は黙って眼を大きく開けると再び鉄壜の蓋(ふた)の取手(とって)を指で