はるはばしゃにのって |
| 春は馬車に乗って |
冒頭文
海浜の松が凩(こがらし)に鳴り始めた。庭の片隅(かたすみ)で一叢(ひとむら)の小さなダリヤが縮んでいった。 彼は妻の寝ている寝台の傍(そば)から、泉水の中の鈍い亀の姿を眺(なが)めていた。亀が泳ぐと、水面から輝(て)り返された明るい水影が、乾いた石の上で揺れていた。 「まアね、あなた、あの松の葉がこの頃それは綺麗(きれい)に光るのよ」と妻は云った。「お前は松の木を見ていたんだな」「ええ」「俺
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 機械・春は馬車に乗って
- 新潮文庫、新潮社
- 1969(昭和44)年8月20日