クサンチス
クサンチス

冒頭文

飾棚だの飾箱だのといふものがある。貴重な材木や硝子(ガラス)を使つて細工がしてある。その小さい中へ色々な物が逃げ込んで、そこを隠れ家(が)にしてゐる。その中から枯れ萎びた物の香(か)が立ち昇る。過ぎ去つた時代の、人を動かす埃がその上に浮かんでゐる。昔の人のした奢侈の、上品な、うら哀(かな)しい心がそこから啓示(けいし)せられるのである。 己(おれ)はさういふ棚や箱を見る度に、こんな事を思

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説」一六ノ七、1911(明治44)年7月1日

底本

  • 鴎外選集 第14巻
  • 岩波書店
  • 1979(昭和54)年12月19日