とっきょたわんにんげんほうしき
特許多腕人間方式

冒頭文

1 ×月×日 雨。 午前十時、田村町特許事務所に出勤。 雫の垂れた洋傘をひっさげて、部屋の扉を押して入ったとたんに、応接椅子の上に、腰を下ろしていた見慣れぬ仁が、ただならぬ眼光で、余の方をふりかえった。 事件依頼の客か。門前雀羅のわが特許事務所としては、ちかごろ珍らしいことだ。 「よう、先生。特許弁理士の加古先生はあんたですな」 と、客は、余がオーバーをぬぐ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 十八時の音楽浴
  • 早川文庫、早川書房
  • 1976(昭和51)年1月15日