ふしゅう
俘囚

冒頭文

「ねエ、すこし外へ出てみない!」「うん。——」 あたしたちは、すこし飲みすぎたようだ。ステップが踉々(よろよろ)と崩(くず)れて、ちっとも鮮(あざや)かに極(きま)らない。松永(まつなが)の肩に首を載(の)せている——というよりも、彼の逞(たくま)しい頸(くび)に両手を廻して、シッカリ抱きついているのだった。火のように熱い自分の息が、彼の真赤な耳朶(みみたぼ)にぶつかっては、逆にあたしの頬を叩く。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1934(昭和9)年2月号

底本

  • 海野十三全集 第2巻 俘囚
  • 三一書房
  • 1991(平成3)年2月28日