ちょうう
聴雨

冒頭文

午後から少し風が出て来た。床の間の掛軸がコツンコツンと鳴る。襟首(えりくび)が急に寒い。雨戸を閉(し)めに立つと、池の面がやや鳥肌立つて、冬の雨であつた。火鉢に火をいれさせて、左の手をその上にかざし、右の方は懐手(ふところで)のまま、すこし反(そ)り身(み)になつてゐると、 「火鉢にあたるやうな暢気(のんき)な対局やおまへん。」といふ詞(ことば)をふと私は想ひ出し、にはかに坂田三吉のことがな

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學大系 70 武田麟太郎・島木健作・織田作之助・檀一雄集
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年6月25日