ふと大塚さんは眼が覚めた。 やがて夜が明ける頃だ。部屋に横たわりながら、聞くと、雨戸へ来る雨の音がする。いかにも春先の根岸辺の空を通り過ぎるような雨だ。その音で、大塚さんは起されたのだ。寝床の上で独(ひと)り耳を澄まして、彼は柔かな雨の音に聞き入った。長いこと、蒲団(ふとん)や掻巻(かいまき)にくるまって曲(かが)んでいた彼の年老いた身体が、復(ま)た延び延びして来た。寝心地の好い時だ。