なみき
並木

冒頭文

近頃相川の怠(なまけ)ることは会社内でも評判に成っている。一度弁当を腰に着けると、八年や九年位提(さ)げているのは造作も無い。齷齪(あくせく)とした生涯(しょうがい)を塵埃(ほこり)深い巷(ちまた)に送っているうちに、最早(もう)相川は四十近くなった。もともと会社などに埋(うずも)れているべき筈(はず)の人では無いが、年をとった母様(おふくろ)を養う為には、こういうところの椅子にも腰を掛けない訳に

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸倶楽部」1907(明治40)年6月

底本

  • 旧主人・芽生
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年2月15日