めばえ
芽生

冒頭文

浅間の麓(ふもと)へも春が近づいた。いよいよ私は住慣れた土地を離れて、山を下りることに決心した。 七年の間、私は田舎(いなか)教師として小諸(こもろ)に留まって、山の生活を眺(なが)め暮した。私が通っていた学校は貧乏で、町や郡からの補助費にも限りがあったから、随(したが)って受ける俸給も少く、家を支(ささ)えるに骨が折れた。そのかわり、質素な、暮し好い土地で、月に僅(わず)かばかりの屋賃

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 旧主人・芽生
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年2月15日