きゅうしゅじん
旧主人

冒頭文

一 今でこそ私もこんなに肥ってはおりますものの、その時分は瘠(やせ)ぎすな小作りな女でした。ですから、隣の大工さんの御世話で小諸(こもろ)へ奉公に出ました時は、人様が十七に見て下さいました。私の生れましたのは柏木(かしわぎ)村——はい、小諸まで一里と申しているのです。 柏木界隈(かいわい)の女は佐久(さく)の岡の上に生活(くらし)を営(た)てて、荒い陽気を相手にするのですから、

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1902(明治35)年11月

底本

  • 旧主人・芽生
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年2月15日