がんせきのあいだ
岩石の間

冒頭文

懐古園の城門に近く、桑畠(くわばたけ)の石垣の側で、桜井先生は正木大尉に逢った。二人は塾の方で毎朝合せている顔を合せた。 大尉は塾の小使に雇ってある男を尋ね顔に、 「音(おと)はどうしましたろう」 「中棚の方でしょうよ」桜井先生が答えた。 中棚とはそこから数町ほど離れた谷間(たにあい)で、新たに小さな鉱泉の見つかったところだ。 浅間の麓(ふもと)に添うた傾斜の地勢

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 旧主人・芽生
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年2月15日