ふね

冒頭文

山本さん——支那(しな)の方に居る友人の間には、調戯(からかい)半分に、しかし悪い意味で無く「頭の禿(は)げた坊ちゃん」として知られていた——この人は帰朝して間もなく郷里(くに)から妹が上京するという手紙を受取ったので、神田(かんだ)の旅舎(やどや)で待受けていた。唯(たった)一人の妹がいよいよ着くという前の日には、彼は二階の部屋に静止(じっと)して待っていられなかった。旅舎を出て、町の方へ歩き廻

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 旧主人・芽生
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年2月15日