冒頭文

啄木鳥いにしへ聖者が雅典(アデン)の森に撞(つ)きし、光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて鋳(い)にたる巨鐘(おほがね)、無窮(むきゆう)のその声をぞ染めなす『緑』よ、げにこそ霊の住家。聞け、今、巷に喘(あへ)げる塵(ちり)の疾風(はやち)よせ来て、若やぐ生命(いのち)の森の精の聖(きよ)きを攻むやと、終日(ひねもす)、啄木鳥(きつつきどり)、巡りて警告(いましめ)夏樹(なつき)の髄(ずゐ)にきざむ。

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本文学全集 12 国木田独歩 石川啄木集
  • 集英社
  • 1967(昭和42)年9月7日