八月十三日。 昨夜は夜通し蒸暑くて寝苦しかつた。夕刊の新聞に台風が東京をも襲ふ筈だと書いてあつたが、夜の十時頃から果してそれらしい風が吹き出した。併し雨はまだ小降であつた。蚊遣線香が無くなつたので十一時で筆を止めて蚊帳の中に入つたが、寝苦しいままに何時しかうとうととすると、アウギュストが啼いたので目が覚めた、もう夜明である。白んだ戸の隙間から吹き込む風で蚊帳が凄(すさま)じい程煽(あふ)