かたこい
片恋

冒頭文

(一しょに大学を出た親しい友だちの一人に、ある夏の午後京浜電車(けいひんでんしゃ)の中で遇(あ)ったら、こんな話を聞かせられた。) この間、社の用でYへ行った時の話だ。向うで宴会を開いて、僕を招待(しょうだい)してくれた事がある。何しろYの事だから、床の間には石版摺(せきばんず)りの乃木(のぎ)大将の掛物がかかっていて、その前に造花(ぞうか)の牡丹(ぼたん)が生けてあると云う体裁だがね。夕方

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1917(大正6)年10月

底本

  • 芥川龍之介全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年10月28日