せっちゅうふじとざんき
雪中富士登山記

冒頭文

一 今朝は寒いと思うとき、わが家の背後なる山王台に立って、遥かに西の方を見渡すと、昨夜の風が砥(と)ぎ澄まして行った、碧く冴えた虚空の下には、丹沢山脈の大山一帯が、平屋根の家並のように、びったり凍(かじ)かんで一と塊に圧しつけられている。その背後から陶器の盃でも伏せたように、透き徹っているのは、言うまでもなく富士の山だ。思いがけなく頭の上が、二、三寸ほど、大根卸しでも注いだように、白くなっている

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 山岳紀行文集 日本アルプス
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1992(平成4)年7月16日