銀座裏のカッフェ・クジャクの内部はまだ客脚が少なく、閑散を極めていた。 彼は、焦茶色の外套の襟で頤(あご)を隠して、鳶色(とびいろ)のソフトを眼深(まぶか)に引き下げていた。そして、室の中を一渡り見渡してから、彼は隅のテーブルへ行って身体(からだ)を投げ出した。 「いらっしゃいまし。何になさいますか?」 すぐと女給が寄って来て言った。 「うむ。何にしようかな?……」