くびをうしなったとんぼ
首を失った蜻蛉

冒頭文

薊(あざみ)の花や白い山百合の花の咲いている叢(くさむら)の中の、心持ちくだりになっている細道を、煙草(たばこ)を吸いながら下りて行くと、水面が鏡の面のように静かな古池があって、岸からは雑草が掩(おお)いかかり、中には睡蓮(すいれん)の花が夢の様に咲いている。そして四辺(あたり)の杉木立や、楢(なら)、櫟(くぬぎ)、楓(かえで)、栗等の雑木の杜(もり)が、静かな池の面にその姿を落として、池一杯に緑

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 佐左木俊郎選集
  • 英宝社
  • 1984(昭和59)年4月14日