せっぷんをぬすむおんなのはなし
接吻を盗む女の話

冒頭文

一 街裏の露地で 社は五時に退(ひ)けることになっていた。 併し、鈴木三枝子は大抵(たいてい)の日を六時か六時半まで社に残るのだった。別に仕事はしなくてもタイム・レコードで居残り割増金をくれることになっているからだった。 鈴木三枝子は、昼の仕事をなるべく残すようにして置いて、居残りの時間をつくるようにした。地方の読者への勧誘状を書いたり、問い合わせに対する返事を書いたりし

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 佐左木俊郎選集
  • 英宝社
  • 1984(昭和59)年4月14日