りょうきのまち
猟奇の街

冒頭文

東京は靄(もや)の濃い晩秋だった。街は靄から明けて靄の中に暮れていった。——冷えびえと蠢(うごめ)いているこの羅(うすもの)の陰には何事かがある? 本当に、何事かが起こっているに相違ない?——彼は東京の靄が濃くなるごとに、この抽象的な観念に捉(とら)えられるのだった。猟奇的な気持ちでありながら、また一種の恐怖観念なのであった。 彼はある朝早く、濃い靄に包まれている街の中を工場地帯に向けて歩い

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 恐怖城 他5編
  • 春陽文庫、春陽堂書店
  • 1995(平成7)年8月10日