かれのしょう
枯野抄

冒頭文

丈艸(ぢやうさう)、去来(きよらい)を召し、昨夜目のあはざるまま、ふと案じ入りて、呑舟(どんしう)に書かせたり、おのおの咏じたまへ  旅に病むで夢は枯野をかけめぐる ——花屋日記—— 元禄七年十月十二日の午後である。一しきり赤々と朝焼けた空は、又昨日のやうに時雨(しぐ)れるかと、大阪商人(あきんど)の寝起の眼を、遠い瓦屋根の向うに誘つたが、幸(さいはひ)葉をふるつた柳の梢(こ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説」1918(大正7)年10月

底本

  • 現代日本文學大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日