きてき
汽笛

冒頭文

改札孫の柴田貞吉(しばたていきち)は一昼夜の勤務から解かれて交代の者に鋏(はさみ)を渡した。朝の八時だった。彼は線路伝(づた)いに信号所の横を自宅へ急いだ。 「おーい! 馬鹿に急いで帰るなあ」 信号所の中から声をかけたのは彼と同じ囲いの官舎にいる西村(にしむら)だった。彼は振り返って微笑(ほほえ)んだ。突然で言葉が出なかったのだ。 「細君はどうなんだ? 幾分かはいいのか?」 「

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 見えない機関車 鮎川哲也編
  • 光文社文庫、光文社
  • 1986(昭和61)年10月20日