かそうかんおうかい
仮装観桜会

冒頭文

1 靄(もや)! 靄! 靄! 靄の日が続いた。胡粉色(ごふんいろ)の靄で宇宙が塗り潰(つぶ)された。そして、その冷たい靄ははるかの遠方から押し寄せてくる暖かいものを、そこで食い止めていた。食い止めて吸収していた。 靄の中で桜の蕾(つぼみ)が目に見えて大きくなっていった。人間の感情もまた、その靄の中で大きくなっていく桜の蕾のようなものだ。街の人たちはもう花見の話をしていた。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 恐怖城 他5編
  • 春陽文庫、春陽堂書店
  • 1995(平成7)年8月10日