かけおち
駈落

冒頭文

一 朝日は既に東の山を離れ、胡粉(こふん)の色に木立を掃いた靄(もや)も、次第に淡く、小川の上を掠(かす)めたものなどは、もう疾(と)くに消えかけていた。 菊枝は、廐(うまや)に投げ込む雑草を、いつもの倍も背負って帰って来た。重かった。荷縄(になわ)は、肩に焼(や)け爛(ただ)れるような痛さで喰い込んだ。腰はひりひりと痛かった。脛(すね)は鍼(はり)でも刺されるようであったし、こむ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 佐左木俊郎選集
  • 英宝社
  • 1984(昭和59)年4月14日