一 伸子は何か物の堕(お)ちる音で眼をさました。陽が窓いっぱいを赤くしてガアンと当たっていた。いつもの習慣で、彼女はすぐ隣のベッドに眼を引き寄せられた。ベッドは空(あ)いていた。姉の美佐子は昨晩も帰らなかったのだ。 昨晩も扉に錠をせずに眠ってしまったことを伸子は思い出した。床の上に朝刊がおちていた。彼女の眠りを醒(さ)ましたのは、その配達が新聞を投げ込んで行った音だったのだ。