かれ だいに
彼 第二

冒頭文

一 彼は若い愛蘭土(アイルランド)人だった。彼の名前などは言わずとも好(い)い。僕はただ彼の友だちだった。彼の妹さんは僕のことを未(いま)だに My brother's best friend と書いたりしている。僕は彼と初対面(しょたいめん)の時、何か前にも彼の顔を見たことのあるような心もちがした。いや、彼の顔ばかりではない。その部屋のカミンに燃えている火も、火(ほ)かげの映(うつ)った桃

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1927(昭和2)年1月

底本

  • 芥川龍之介全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年3月24日