さんじょくのき
産褥の記

冒頭文

わたしは未だ病院の分娩室に横になつて居る。室内では夕方になると瓦斯(がす)暖炉(すとおぶ)が焚かれるが、好い陽気が毎日つづくので日のある間は暖い。其れに此室は南を受けて縁に硝子戸が這入つてゐるから、障子を少し位明けて置いても風の吹込む心配は無い。唯光線がまぶしいので二枚折の小屏風を障子に寄せて斜に看護婦が立てて置く。未だ新しい匂の残つてゐる畳の上に、妙華園の温室を出て来た切花を硝子の花瓶に挿した小

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆42 母
  • 作品社
  • 1986(昭和61)年4月25日