ろっぱくきんせい
六白金星

冒頭文

楢雄(ならを)は生れつき頭が悪く、近眼で、何をさせても鈍臭(どんくさ)い子供だつたが、ただ一つ蠅を獲(と)るのが巧くて、心の寂しい時は蠅を獲つた。蠅といふ奴は横と上は見えるが、正面は見えぬ故、真つ直ぐ手を持つて行けばいいのだと言ひながら、あつといふ間に掌の中へ一匹入れてしまふと、それで心が慰まるらしく、またその鮮かさをひそかに自慢にしてゐるらしく、それが一層楢雄を頭の悪いしよんぼりした子供に見せて

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代文学大系 44 武田麟太郎・島木健作・織田作之助集
  • 筑摩書房