あかがえる
赤蛙

冒頭文

寝つきりに寝つくやうになる少し前に修善寺へ行つた。その頃はもうずゐぶん衰弱してゐたのだが、自分ではまだそれほどとは思つてゐなかつた。少し体を休めれば、ぢきに元気を回復するつもりでゐた。温泉そのものは消極性の自分の病気には却つてわるいので、私はただ静かな環境にたつたひとりでゐることを欲したのである。修善寺は前に一晩泊つたことがあるきりで、べつにいい所だとも思はなかつたが、ほかに行くつもりだつた所が、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學大系 70 武田麟太郎・島木健作・織田作之助・檀一雄集
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年6月25日