さかずき

冒頭文

温泉宿から皷(つづみ)が滝(たき)へ登って行く途中に、清冽(せいれつ)な泉が湧(わ)き出ている。 水は井桁(いげた)の上に凸面(とつめん)をなして、盛り上げたようになって、余ったのは四方へ流れ落ちるのである。 青い美しい苔(こけ)が井桁の外を掩(おお)うている。 夏の朝である。 泉を繞(めぐ)る木々の梢(こずえ)には、今まで立ち籠(こ)めていた靄(もや)が、

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1910(明治43)年1月

底本

  • 山椒大夫・高瀬舟
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1968(昭和43)年5月30日、1985(昭和60)年6月10日41刷改版