れきしそのままとれきしばなれ
歴史其儘と歴史離れ

冒頭文

わたくしの近頃書いた、歴史上の人物を取り扱つた作品は、小説だとか、小説でないとか云つて、友人間にも議論がある。しかし所謂 normativ な美学を奉じて、小説はかうなくてはならぬと云ふ学者の少くなつた時代には、此判断はなか〳〵むづかしい。わたくし自身も、これまで書いた中で、材料を観照的に看た程度に、大分の相違のあるのを知つてゐる。中にも「栗山大膳」は、わたくしのすぐれなかつた健康と忙しかつた境界

文字遣い

新字旧仮名

初出

「心の花」1915(大正4)年1月

底本

  • ザ・鴎外 ―森鴎外全小説全一冊―
  • 第三書館
  • 1985(昭和60)年5月1日