もうそう
妄想

冒頭文

目前(もくぜん)には広々と海が横はつてゐる。 その海から打ち上げられた砂が、小山のやうに盛り上がつて、自然の堤防を形づくつてゐる。アイルランドとスコットランドとから起つて、ヨオロッパ一般に行はれるやうになつた dûn目前(ドユウン) といふ語(ことば)は、かういふ処を斥(さ)して言ふのである。 その砂山の上に、ひよろひよろした赤松が簇(むら)がつて生えてゐる。余り年を経た松では

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文学」1911(明治44)年3月、4月

底本

  • 日本文学全集4 森鴎外集
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年11月1日