あべいちぞく
阿部一族

冒頭文

従(じゅ)四位下(いのげ)左近衛少将(さこんえのしょうしょう)兼越中守(えっちゅうのかみ)細川忠利(ほそかわただとし)は、寛永十八年辛巳(しんし)の春、よそよりは早く咲く領地肥後国(ひごのくに)の花を見すてて、五十四万石の大名の晴れ晴れしい行列に前後を囲ませ、南より北へ歩みを運ぶ春とともに、江戸を志して参勤(さんきん)の途(みち)に上ろうとしているうち、はからず病にかかって、典医の方剤も功を奏せず

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1913(大正2)年1月

底本

  • 日本の文学 3 森鴎外(二)
  • 中央公論社
  • 1972(昭和47)年10月20日