序(はしがき) かようなことを、作者として、口にすべきではないであろうが、自分が書いた幾つかのなかでも、やはり好きなものと、嫌いなものとの別が、あるのは否まれぬと思う。わけても、この「白蟻」は、巧拙はともかく、私としては、愛惜措(お)く能わざる一つなのである。私は、こうした形式の小説を、まず、何よりも先に書きたかったのである。私小説(イヒ・ローマン)——それを一人の女の、脳髄の中にもみ込んで