かいがら
貝殻

冒頭文

一 猫 彼等は田舎(ゐなか)に住んでゐるうちに、猫を一匹飼ふことにした。猫は尾の長い黒猫だつた。彼等はこの猫を飼ひ出してから、やつと鼠の災難だけは免(まぬか)れたことを喜んでゐた。 半年(はんとし)ばかりたつた後(のち)、彼等は東京へ移ることになつた。勿論猫も一しよだつた。しかし彼等は東京へ移ると、いつか猫が前のやうに鼠をとらないのに気づき出した。「どうしたんだらう? 肉や刺身(さしみ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋」1927(昭和2)年1月

底本

  • 芥川龍之介作品集 第四巻
  • 昭和出版社
  • 1965(昭和40)年12月20日