じょとう
女盗

冒頭文

女は黒い、小型の旅行鞄をさげた赤帽のあとから、空氣草履の足擦り靜に車内へはいつて來た。黒絹の手袋した右手に金金具、茶なめし皮のオペラパツクを、左手に派手な透模樣のパラソル[#底本では「バラソル」、171-2]を、そして、金紗づくめのけばけばしい着附、束髪に厚化粧、三十三四と見える年頃が、停車中の車内のむしむした、變にダルな空氣をぱつと引き立たせるに十分だつた。車窓には梅雨にはいつて間もない小糠雨が

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 若き入獄者の手記
  • 文興院
  • 1924(大正13)年3月5日