のぎくのはか
野菊の墓

冒頭文

後(のち)の月という時分が来ると、どうも思わずには居られない。幼い訣(わけ)とは思うが何分にも忘れることが出来ない。もはや十年余(よ)も過去った昔のことであるから、細かい事実は多くは覚えて居ないけれど、心持だけは今なお昨日の如く、その時の事を考えてると、全く当時の心持に立ち返って、涙が留めどなく湧くのである。悲しくもあり楽しくもありというような状態で、忘れようと思うこともないではないが、寧(むし)

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

底本

  • 日本文学全集別巻1 現代名作集
  • 河出書房
  • 1969(昭和44)年