ねこまち さんぶんしふうなろまん
猫町 散文詩風な小説

冒頭文

蠅(はえ)を叩(たた)きつぶしたところで、蠅の「物そのもの」は死にはしない。単に蠅の現象をつぶしたばかりだ。—— ショウペンハウエル。 1 旅への誘(いざな)いが、次第に私の空想(ロマン)から消えて行った。昔はただそれの表象、汽車や、汽船や、見知らぬ他国の町々やを、イメージするだけでも心が躍(おど)った。しかるに過去の経験は、旅が単なる「同一空間における同一事物の移動」にすぎないことを教え

文字遣い

新字新仮名

初出

「セルパン」1935(昭和10)年8月号

底本

  • 猫町 他十七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年5月16日